令和3年6月1日
弁護士 段 林 君 子(文責)
弁護士 瀨 戸 悠 介
令和3年5月31日,札幌地方裁判所において,泉南型アスベスト国家賠償請求事件について,死亡した被災者の遅延損害金起算日を石綿疾患発症日とする判決が出ました。当該事案を担当しておりましたので,概要をお知らせ致します。
1 事案
令和元年10月8日、バスの整備工場においてブレーキライニングの研磨作業等の石綿作業に従事したことにより,石綿疾患(腹膜中皮腫)に罹患し死亡した元従業員の遺族が国に対して,アスベスト被害に関する損害賠償を求めて、札幌地方裁判所に提訴した件です。事案の詳細については,提訴時に掲載したコラムに記載されていますので,そちらをご覧下さい。
→バス会社の自動車整備工場で石綿曝露した被災者による国家賠償請求訴訟
2 判決の概要
今回の判決は,国が訴訟において,被災者の石綿被害について自らに損害賠償義務があることを認めていたので,判決においても国の責任が認められる前提で判断が下されています。
本件では,国の被災者遺族に対する慰謝料等の損害賠償債務の遅延損害金の起算日が生前の中皮腫発症日か死亡時かという点のみが争点となり,判決では原告の主張するとおり,中皮腫発症日が起算日であると判断されました。
泉南型アスベスト事案において,当該争点が問題になり判決が下されたのは本件で2件目になります(中皮腫事案では本件が初めてです)。
全国で初めての判決は今年の4月13日に,札幌地方裁判所で出されています。こちらの案件も当弁護団で扱った事件です(詳細はこちらの記事をご覧ください。→
遅延損害金の起算日に関する勝訴判決 | hokkaido-asbest)。
本件争点の意義については上記記事で詳細に述べていますので,ここでは割愛させていただきます。
3 本件争点に関する他事件の動向等
(1)令和3年4月13日付け札幌地裁判決
前記の本年4月13日付けの札幌地裁判決が出された後,国が控訴をしてきたため,現在同事件は札幌高等裁判所に係属しています。
(2)建設アスベスト訴訟における最高裁判所の判断
令和3年5月17日付け最高裁判決(神奈川1陣訴訟(平成30年(受)第1447号外)は,建設アスベスト訴訟において,一部の建材メーカーに賠償を命じ,その際石綿関連疾患により死亡した被災者の死亡慰謝料の遅延損害金の起算日を生前に遡って認めました。
この点,本件争点について最高裁が正面から争点として取り上げたわけではないのですが,最高裁においても遅延損害金の起算日が生前に遡ることを当然の前提にしたことだと理解されますので,一層原告の主張の正当性が裏付けられてものと考えています。
4 最後に
本件の被災者のご遺族(ご長男の奥様)から,本件判決を受けて,以下のコメントを戴きました。
「義父の件は,典型的な石綿工場の事案ではないため国が責任を認めるか不安でしたが,今回判決で国の責任が認められて,提訴した意味があったと思います。
今回報道等していただいたので,同じように自動車整備で石綿被害に遭った方の眼に触れ,その方々の救済に繋がれば良いと思います。
遅延損害金の起算日については,義父が中皮腫を発症してから亡くなるまので苦しんだ時期についても国の責任が認められたということで,嬉しく思っています。
ただ,判決は嬉しいのですが,国が義父の被害について自らの責任を認めながら,遅延損害金の起算日について争い続けていることについて,不誠実に思われ,とても残念です。国は控訴せずに今回の判決通りの責任を認めて欲しいと思っています。」
ご遺族からは,被災者が亡くなるまで苦しんだ期間について損害が認められないのがおかしい,というお気持ちを何度も聞かせていただいており,本件問題の核心的なお言葉だと受け止め,訴訟活動に当たらせていただきました。
国が控訴してくるかまだ分かりませんが,今回の勝訴判決を維持できるよう引き続き尽力致します。